JOURNAL SCÈNE 5

INTERVIEW w/ Hiroko Otake

INTERVIEW

SCÈNEアーティスト インタビュー アートは世界の本質を追求するひとつの手掛かり~大竹寛子さん

SCÈNEで展示を行うアーティストに、SCÈNEディレクターの山本菜々子とSCÈNEアドバイザーの田辺良太がインタビューを行う本シリーズ。 今回は、日本画の概念を覆すような作品を多く生み出し、ファッションや家具など異なるジャンルとのコラボレーションも積極的に行なっている大竹寛子さんに、日本画との出会いや絵を通じて表現したいことなどについてお話を伺いました。

小学生の頃のアイドルはシャガール

田辺
大竹さんは、現在日本画家として活躍されていて、芸大の日本画で博士号まで取っていますが、そもそも絵や日本画はどのように始めたのですか?
大竹
もの心ついた時から、ずっと絵は好きだったんです。 誰もが子どもの頃に自然とお絵かきをしていたように、私もいつも鉛筆とクレヨンを持ったらどこにでも絵を描いているような子どもでした。その延長で今も描いているという感覚です。「なぜ絵を始めたのですか?」という質問は一番よくされるのですが、私からすると「なぜ皆さんは絵を描くことをやめてしまったんだろう?」という感じなんです。 そんな私を見ていて、子どもの頃から芸術や美術に興味があるのを両親が理解してくれて、よくいろんなものを見に美術館などに連れていってもらいました。小学校の頃は、色がヴィヴィットなマティスや、シャガールの絵が好きでした。その頃から既にブルーが好きでしたね。当時から絵を模写するのが好きで、小学校のときにシャガールを模写した絵は今でも実家に飾ってあります。その頃の私にとってのアイドルは、テレビに出ているアイドル歌手ではなく、シャガールでした。
山本
その頃から、やはり絵を描くのはうまかったんですか?
大竹
そうですね(笑)。上手い方だったと思います。 絵以外に音楽も好きで、母がチェロ奏者だったこともあり子どもの頃から音楽に触れる機会も多く、スクールに通ってピアノを習っていました。スポーツをして体を動かすことも好きだったので、子どもの頃は、絵は好きなことの一つだったと思います。中学生になると現代音楽を聴くようになって、ジョン・ケージや武満徹の音楽にはまっていました。 同時期に絵も現代的でミニマルなマーク・ロスコなどの作品に興味が移っていきました。無の表現や空間感などに興味を持っていて、そんな私を両親は車で清里現代美術館など、いろいろな美術館や展示に連れて行ってくれました。中学の後半に長谷川等伯や円山応挙などの日本画と出会って、何百年も前にロスコと同じようなことを日本の思想を持ってやっていたと知り、とても新しいものに感じたんです。そして高校一年生の頃に日本画を描き始めました。
田辺
芸大を目指したのもその頃からですか?
大竹
そうですね。根拠のない自信というか、芸大には入れると思っていました。入るまでに4浪したんですけど、その間にデッサンのテクニックなど基礎をしっかり勉強しました。そのことが現代美術の表現をするのにマイナスに働くかなと考えた時期もありましたが、今となっては大事な時間だったと思っています。

現代アーティストは戦略家

大竹
誰かが言った言葉で「現代アートは戦略だ」というのがあります。ピカソもウォーホールも、現代アートのアーティストは戦略家だと思うのですが、私にとって、アートは時代に翻弄されながらも、本質的なことを追求する手段だと思っています。
山本
大竹さんの作品は、幻想的で、抽象的でもあり、写実的なところもあって、これまでの日本画のイメージを変えられるような作品だと思います。芸大で博士号を取得してから今の画風にたどり着いた経緯を教えてください。
大竹
そう言っていただけると嬉しいです。今の時代に、自分に何ができるのかを考えた延長線上に今の画風があります。そして常に描きたいイメージのために新しい手法や表現方法を模索しています。私が15歳で日本画と出会った時に新しいと感じたように、私の絵を見て新しいと感じていただける方がいたら嬉しいですね。 日本画の世界は封建的で、私も嫌だなと思うことはありますが、後からきちんと意見できるように、そして意見したときに説得力があるようにと考えて博士号まで取ることを決めました。文化庁の派遣で海外へ行くことが決まったときは、現在アートの最先端を肌で感じたくて、行き先にニューヨークを選びました。そこで改めて日本画の良さについて考えましたし、いい刺激になりました。
田辺
ニューヨークでの体験や大竹さんの絵を見た人の反応やなどは、どんなものでしたか?。
大竹
日本を出れば日本画という言葉もないので、みなさんカテゴライズせずに絵画の一つとしてフラットに見ていただけるのは新鮮でした。 見せる方としては、まず見た目のインパクトと、コンセプトを理解してもらうためにもその絵画の裏側が知りたくなるような第一印象を残すことを心がけていました。見た方が、日本画独特の岩絵具の質感や、金箔、銀箔の素材にも興味を示してくれたので、またそこに日本画の新しい可能性を感じています。
田辺
大竹さんの描く蝶や花といったモチーフについては、何か反応はありましたか?
大竹
そうですね。 見てくれた方々が儚さや移ろいを感じてくれて、「きれい」、「面白い」というような見た目の印象を伝えてくれたり、精神性の部分まで踏み込んだ質問をしていただいたりと、いろんな反応がありました。

蝶の完全変態に命の循環を感じる

山本
そもそも蝶や花を描くきっかけや理由は、どんなことだったのでしょうか?
大竹
蝶は完全変態といって、卵から幼虫、幼虫から蛹、蛹から成虫へと変態を遂げます。蛹の時に中で一度溶けて液体になって成虫になると聞いたときに、「すごい、劇的なことが起きている」と思ったんです。意外と人は自然の中ですごいことが起きていても、当たり前のように見過ごしていることが多いと思います。人間も含めて生命は同じように循環していますし、人間の心の成長過程での循環でも同じようなことが起こっていると思います。そのような循環を、蝶を通して描きたいと思いました。 花も移り変わりの中に両義性や二面性があります。花は咲いて枯れていきますが、枯れるということは種を残し次の命をつなぐための準備でもあります。そんな物事に存在する二面性を画面の中で表現したいと思っています。 私たちは、人間中心に地球のことを考えがちですが、植物や動物、昆虫など、いろんな生物が先にいて、人間はその一部でしかありません。植物や昆虫などの人間以外の生物を中心に考える時間がもっとあってもいいと思います。
山本
なるほど、昆虫の研究をしている方のお話を伺った時に、その方も「この地球は昆虫の惑星だ」とおしゃっていました。 蝶や花はどのようにして描くのですか? デッサンなどはされますか?
大竹
蝶園や公園に行って観察したり、家で放し飼いにしているときもあります。芸大にいたときには、ネムノキのピンクの花にクロアゲハが集まる時期があって、よく観察していました。蝶の飛んでいる浮遊感が好きで、飛ぶということへの憧れもあります。蝶は一瞬一瞬動いているので、私たちの見ているものは蝶の残像に過ぎないのです。その脳に作られた現象を、絵にしたいと思って描いているのかもしれません。絵の中で流れる感じを表現しているのも、その浮遊感や止まることのない動きを表しています。

具象で紡ぐ抽象的な世界

山本
大竹さんに限らず、絵には、描く方の人間性が出るのではないかと思います。大竹さんご本人のお人柄には美しさや華やかさや芯の強さを感じ、それが作品にも反映されていると思うのですが、私生活が描く作品に影響していると思うことはなんですか?
大竹
そうですね、双方向に影響していると思います。子どもの頃から絵が好きで、絵を見ることも好きなので、どこか旅行に行くときには常に絵を見に行くのが目的になります。海外に行くときは自由に行動できるので、だいたい一人です。あとはアーティストの友人や他の業種のいろんな人がアートについてどう思うかについて話を聞くのが好きです。 またインスピレーションは自然や音楽から得ています。音楽はいつも聞いていて、特に描いているときにはその日の気分に合ったものを聞いています。中学校のときにBLANKEY JET CITYが好きだったんですが、彼らの曲や井上陽水の歌詞を見ていると、使っている言葉は日本語として意味のある具象的なものだけれど、全体としては抽象的な世界感があります。そういう詩的な言葉が好きなんです。私の描く絵も、花や蝶などのモチーフを使って、全体としては抽象的な絵を描いているということにも通じるかもしれませんね。

秘密の花園のように、覗いてみたい世界

山本
私はどちらかというと飽きっぽい方なのですが、大竹さんは絵を描くのに飽きたりすることはないんですか?
大竹
絵を描くこと自体には飽きませんが、ある意味で飽きっぽいと言えるかもしれません。 飽きっぽいからこそ、常に新しい表現方法や画材の使い方などを模索しています。銀泥(ぎんでい)という、本物の銀の粉を膠(にかわ)で混ぜて泥状にした画材があるのですが、私はそれを焼くことで硫化(りゅうか)させて使っています。また花も焼いて硫化させたりして、自分の求める表現を実現するため、より良い作品を作るためなら、これまでにタブーとされて行われてこなかった手法でも使おうと考えています。
山本
今回のSCÈNEでの展覧会名は、「secret garden-秘密の花園に咲く花の香り-」ですが、大竹さんの想いを聞かせてください。
大竹
日本ではまだあまりないアートサロンという場所であるSCÈNEで個展を開催する機会をいただき、あの素敵な空間を「秘密の花園」のように、ちょっと覗いてみたいと思うような世界観にしたかったんです。私も山本さんも女性ですし、女性的な、エロティックというか、香り立つような、フェロモンのようなものも出していきたいと考えています。
山本
この展示の話を大竹さんとしたのは1年前の香港でしたよね。私もエロティックなものや官能的なものも好きですし、そんな雰囲気のある展示にしたいと思って、二人でお話をしたのを覚えています。アートに限った話ではありませんが、見る人の脳内に持っているものやフィルターによって、どのように見えるか、どのように感じるかはまったく変わってくると思うので、皆さんに見ていただくのが本当に楽しみです。
大竹
そうですね。その人の経験で見え方も変わってきますよね。私もアーティストとして、誰がいつ見ても何かを返せるような作品を作っていきたいと思っています。アートを見ることで、視覚だけではなくほかの器官や感覚も揺さぶることができると思っていますので、そういう作品にしたいと思います
田辺
これまでもファッションやインテリアなどいろいろなプロジェクトに参加されていますが、これからやってみたいこと、興味のあることはありますか?
大竹
ライブペインティングや、企業とのコラボレーションなど、一人では生み出せない立体的なことにも興味がありますので、新しいことにはどんどん挑戦していきたいです。
文・構成:山下千香子 写真撮影:石塚定人

SCÈNEからの質問

Q.大竹さんの思う、日本画の魅力とは?

金箔、銀箔、岩絵具、和紙、墨などの素材感と、 鉱物や植物からできている異なる素材をミックスできること。

Q.大竹さんにとってアートとは?

自分にとって世界の本質とは何かを考える手掛かり。

PROFILE

Hiroko Otake

http://www.hiroko-otake.com/ 長年研鑽を積んだ日本画の伝統的な技法を基に、 箔や岩絵具を用いて新たな表現を展開し、 国内外で広くアート活動を行う 2006 東京藝術大学絵画科日本画専攻 卒業 2008 東京藝術大学大学院美術研究科日本画専攻 修了 2011 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程 日本画研究領域 修了 美術研究博士号取得 2015-2016 文化庁新進芸術家海外派遣制度(アメリカ・ニューヨーク) 〈主な展覧会など〉 2018 「Spring Group Show」Bergdorf Goodman、New York アメリカ 「大竹 寛子 個展 -fleurs et papillons-」渋谷西武 全館プロモーショ Art Fair Tokyo 2014 東京国際フォーラム Art meets Life SOGO SEIBU 2017 「Hiroko Otake solo exhibition」帰国記念展、東京・名古屋・大阪 「A Sustaining Life」Bergdorf Goodman、New York アメリカ 2016 「Summer celebration」Waterfall Mansion and Gallery、New York アメリカ 「Hiroko Otake solo exhibition」TENRI gallery、New York アメリカ 2015 「Affinities」Ambit Gallery, Barcelona スペイン 「Psyche -生命としての蝶-」大竹寛子展 西武池袋本店アートギャラリー 2014 「Hiroko Otake Solo exhibition 2014」 Art Fair Tokyo 2014 東京国際フォーラム ART GALLERY 水無月 「Japanese Flowers」IAM Gallery, New York アメリカ 2013 「大竹 寛子 個展」ART GALLERY 水無月・岐阜県 「Zig Zag -Harmonica books-」Stuttgart ドイツ 「MEGUMI OGITA GALLERY GALLERY ARTIST GROUP SHOW」MegumiOgitaGallery 東京 「New City Art Fair Taipei」台北

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