JOURNAL SCÈNE 2

INTERVIEW w/
MIDORI SATO

INTERVIEW

心に正直な
偽りのない画面を描きたい(佐藤翠)

SCÈNEで展示を行うアーティストに、SCÈNEのギャラリスト山本菜々子とアートディレクター田辺良太がインタビューを行う本シリーズ。今回は、クローゼットやハイヒールなどファッションに関連したモチーフを多く描いている佐藤翠さんに、作品づくりやファッションについてお話を伺いました。

大好きだった絵が一度は楽しくなくなった

山本
今日は佐藤さんとアートやファッションについて女子会のようにお話しつつ、田辺さんからアートの専門的なことを聞いていただきたいと思っています。まず、佐藤さんが絵を描こうと思ったきっかけを教えてください。
佐藤
小さい頃から絵を描くことが一番好きで、自然と描いていました。ただ当時は、絵描きが仕事になるということは考えていなくて、漠然と絵につながるような仕事をしたいと思っていました。確か、小学生の頃はファッションデザイナーに憧れていましたね。美大に行きたいと思い、美大の予備校に通って受験用の勉強をしたのですが、それが私には合わなくてしばらく苦しい時期を過ごしました。美大には受かりましたが、あんなに好きだった絵を描くことが楽しくなくなってしまったんです。しばらく何を描きたいのかもわからなくなり、大学2、3年生の頃までとても悩んでいました。その頃は絵以外のことに目を向けようと、好きなフランスのファッションブランド“Cacharel”のショップで3年間アルバイトをしていました。
大学3年生の頃、交換留学でフランスのディジョン国立芸術大学に3ヶ月間通いました。そのフランス留学が自分を見つめ直すきっかけになり、絵を描く楽しさや好きな気持ちを取り戻すことができました。フランスでは、言葉もあまり通じないし、日本の友人もいなくて日本語のテレビもない、そんな環境のおかげで集中して絵に向かい合うことができたのだと思います。フランスでの経験を通じて、これからも絵を描いていきたい、大学院に進みたいと考えるようになりました。
田辺
自由な表現であるはずの芸術なのに、美大の受験で正解というか模範的な絵を求められるのは、日本の教育のよくないところです。でも佐藤さんは、海外の自由な空気の中で、本当に自分のやりたいことを取り戻せたんですね。
そして苦しいながらもテクニックを習得したことが、のちの佐藤さんの作品に生きているのかもしれません。ピカソもマティスも独特なタッチの絵を描いていましたが、デッサンはものすごくうまかったんです。アーティストはテクニックを持った上で何を描きたいか、見たものをそのまま描くのではなく、心の感じたままをどう表現して描くかが大事です。

フランスの空気を感じる色彩

山本
先日までパリに行っていたのですが、フランスの空気や街に息づく色調の中に、佐藤さんの作品に通ずるものを感じました。やはりフランスでの生活が影響しているのでしょうか。またパリの古いアパルトマンには素敵なクローゼットがあることが多いですが、佐藤さんがクローゼットを描くきっかけもフランスにあったのでしょうか。
佐藤
確かに色の選び方や作品の空気感などはフランスでの生活が影響しているかもしれません。その後、繰り返しクローゼットを描いているのも、フランスで暮らしていた学生寮の部屋を描いた絵の一部としてクローゼットを描き込んだことがきっかけだと思います。
フランスで何を描くか悩んでいたときに、一番好きなもの、自分の変わらない価値観を表現すれば、自分にしかかけない絵が描けるのではないかと思いました。それが私にとっては洋服だったんです。きっと大学時代にCacharelで働いた経験も影響していて、当時大好きな洋服がきれいに陳列されている様子をとても美しいと感じていました。
山本
佐藤さんは、たくさんの夢のようなクローゼットを描いていらっしゃいますが、お家のクローゼットはどんな感じなんですか?
佐藤
現在住んでいる家のクローゼットは改築して取り付けたものですが、まだまだ理想のクローゼットにはほど遠いですね(笑)。絵に描いているクローゼットも、最初の頃は実在するものを描いていましたが、今は想像で描いています。絵に登場する靴などのアイテムも、具体的なものというよりは、記号のようなイデアのような存在として描いています。

自然に咲く花の生命力ある姿に惹かれる

山本
佐藤さんの絵には、きらきらとした心ときめく瞬間がつまっているような印象を受けます。佐藤さんにとって心ときめく瞬間はどんな時ですか?
佐藤
少し前までは、ほしい服を見つけたときとか、ブティックにきれいな洋服が並んでいる様子を見たときなどにときめいていましたが、最近は少し変化してきて、自然や植物の素晴らしさに惹かれています。以前は自然のものは敬遠していたのですが、最近は花の素晴らしさに目覚めて、絵にも描くようになりました。植物が生命を持ち自立して存在しているという、その存在感に衝撃を受けるようになったんです。また植物は生きていると同時に、摘んでしまえば枯れてしまう儚さも持ち合わせています。花の色も質感も形も、見れば見るほど不思議です。自然界のものは、人工物の造形の源になっていたり、インスピレーションを与える存在であったり、様々なものの核・原型であると思いますし、植物を観察しているといつも新たな発見があります。

絵を描く時は下書きをしない

山本
佐藤さんは、現在どんなところで絵を描いているんでしょうか。
佐藤
今は自宅の一室をアトリエにしています。アトリエはそんなに広くないのですが、ロフトのある部屋を改装したので天井は高いので、そこが気に入っています。
田辺
作家によっては昼間の太陽光でしか描かないとか、描き始めたら時間を忘れて夜通し描き続けるとかいろんなタイプの人がいますが、佐藤さんはどんなスタイルですか?
佐藤
結構、健康的な生活をしているタイプです。午前中ジムに行って運動してからお昼ご飯を食べて、絵を描く。その後、夕飯を食べてから、また絵を描く。そんな毎日です。
山本
毎日描いているということは、お休みはないのですか? また絵を描くときは、どんな風に描いていますか。
佐藤
基本的には毎日描きます。逆に絵を描けない日が続くとフラストレーションが溜まってきます。私にとって絵を描くことは、とても好きなことですし、とても自然なことなんです。
本番を描く前に、アイデア帳にある程度の画面構成のバランスなどは描きますが、下書きは一切しません。画面の中で想像できないことが起こっていくのが面白いですし、その画面で起こることに反応しながら描いていきたいんです。言葉では説明できないけれど心にある「何か」、自分の想像を超えた未知のものを描きたいと思っています。また絵画として成立させるために、見る人によって幅広い受け取り方をしてもらえる、違う印象を与えられる絵を描けたらいいなと思っています。こちらから限定するのではなくて、絵を見る人それぞれに自由に捉えてほしいのです。
田辺
佐藤さんの絵は、具象であり抽象というか。下書きしない書き方も、抽象画っぽいですよね。私も絵を描くのでわかるんですが、作品としてどこまで描き込むのかとか、色を塗るのかとか、やりすぎないさじ加減が難しいところなのですが、そのあたりが佐藤さんの独特のセンスであり才能だと思います。

自分が腑に落ちる作品を創る

山本
佐藤さんが絵を描く際に一番大事にしていることはなんですか?
佐藤
偽りのない画面をつくることです。自分の本当に表したい何かが欠片でもいいから表れている画面、嘘のない、心に正直な画面を作ることです。
山本
佐藤さんは、とてもおしゃれでファッションもお好きですが、靴や洋服を選ぶ時のポイントはどんなことですか?
佐藤
基本的にクオリティは求めます。長く愛せるもの、飽きてしまわないもの、信念をもって成立しているものに惹かれます。
山本
私も質は大事にしています。袖を通したときに、きちんと作られた洋服には質の高さやオリジナリティを感じられますよね。上質な服と同じように、ものを作る際には、オリジナルということがとても大事だと思うのですが、佐藤さんのオリジナリティはどんなところでしょう?
佐藤
自分にとって心地が良いもの、気持ち悪くないもの。腑に落ちる、しっくりくるものを作るようにしています。作品づくりの際は、自分が見て嫌なところがないか、許せない部分はないか、ということを判断の基準にしています。そこが難しい部分でもあり、楽しい部分でもあります。
絵を描いているときは無意識というか、何を考えているのか思い出せないのですが、一方では、画面づくりを客観的に見られるように意識しています。近づきすぎると客観的に見られなくなってしまうので、少し描いては画面から離れて見ます。また途中まで描いたら一度手を止めて、その間にほかの作品を描いて、また戻って描く、というような作業を繰り返します。1つの作品を描くのに、だいたい1ヶ月から2ヶ月ぐらいかかります。
山本
今回のSCÈNEでの展示についてお聞かせください。
佐藤
これまでも美術館やギャラリーなどいろんな場所で展示をしてきましたが、SCÈNEはほかのどことも違うラグジュアリーで素敵な空間なので、とても楽しみにしています。“Eternal Moment”という今回の展示のタイトルは、私が絵を描くときに持っている次のような「想い」がもとになっています。「一瞬を捉えて画面に落とし込むと、作品の中で、それが永遠になる」。きっと、それは会場で見ていただくときも同じで、来場していただいた方やその日のお天気など、たくさんの要素が集まってできあがる空間や瞬間が、永遠になっていくような…。そんな展覧会にできたらいいなと思っています。
山本
素敵な展示になると思います。私もとても楽しみです。今日は素敵なお話をありがとうございました。

文・構成:山下千香子
写真撮影:石塚定人
撮影協力:小山登美夫ギャラリーoffice

SCÈNEからの質問

Q.佐藤さんにとってアートとは? 美とは?

どちらも、
「なくてはならないもの」です。

PROFILE

佐藤翠

色とりどりの服が掛かったクローゼット、高いヒールの靴が並ぶシューズラック、鮮やかな花々。佐藤翠の絵画は、女の子の憧れが詰まった宝石箱のようです。画面を眺めていると、大胆で素早いタッチがモチーフの輪郭を溶かし、具象性と抽象性が共存しつつ鮮やかな色彩と卓抜な構成が強い魅力を放っていることに気づきます。美術史家・美術評論家の高階秀爾氏も指摘する通り、佐藤の作品は、絵画の魅力、喜びに溢れ、「ほのかな、かすかな官能性の香りがいわば隠し味のように重なって、比類ない豊麗な世界」高階秀爾『ニッポン・アートの躍動』(講談社)を生み出しています。

佐藤翠は1984年、愛知県生まれ。2008年に名古屋芸術大学絵画科洋画コースを卒業。在学中にはディジョン国立美術大学(フランス)へ交換留学。2010年に東京造形大学大学院造形学部で修士課程を修了しました。現在は名古屋市を拠点に制作しています。作品は、芥川賞受賞作家・中村文則の小説『去年の冬、きみと別れ』(2013年、幻冬舎)の装画や、松永大司の映画『トイレのピエタ』(2015年)の劇中に使われたり、『花椿』(資生堂)では原田マハの短編小説と挿画でコラボレーションをするなど、その活躍の場を広げています。「VOCA展 2013 現代美術の展望―新しい平面の作家たち」(2013年、上野の森美術館、東京)では大原美術館賞を受賞、作品は同美術館に収蔵されました。2015年には資生堂ギャラリーでのグループ展「絵画を抱きしめて Embracing for Painting -阿部 未奈子・佐藤 翠・流 麻二果展-」に出展。今年は、8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Galleryにて小山登美夫ギャラリーでの3度目の個展「Secret Garden」を開催した他、「あいちトリエンナーレ2016 虹のキャラヴァンサライ」にも参加しています。

ARCHIVE

JOURNAL SCÈNE 1
INTERVIEW w/ YASUMICHI MORITA

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EXHIBITION